聞く、話す、短く温かい車内の空間

久しぶりに実家へ寄ると、タクシードライバーの兄と顔を合わせました。
世間話などしていると、兄がふと「こんなお客さんがいた」と言い出すので、また迷惑なお客さんがいたのかな? と思ったら、どうやら違うようです。
「死んだ飼い犬をタオルにくるんだ、若い男の人でね」
「乗せたの? その人」
犬の死体と一緒でもいいのか、と一瞬驚いた私は、なんと心が狭かったのでしょう。
「会社の規則には書いてないし。人間じゃなくったって、家族を亡くしたら辛いだろ」
その人は兄に、ペット火葬場までと告げました。
兄が話を聞いてみると、長年ずっと病気だったおばあちゃん犬で、せめて最期はやすらかに……と思ったのに、直前まで苦しんで亡くなったとのことでした。その人は話しながら、ぽつりぽつりと涙を流しているのが、バックミラーに写っていたそうです。
「降りる時にありがとうって言われたんだけどさ。たいしたこと話しちゃいないけど、少しでも気が楽になってくれたなら、いいよな。あの犬、すごく大事にされていたから、きっと天国で飼い主を待ってるよ」
兄はそう言って笑いました。他愛のない話でも、大切なペットを亡くされたそのお客さんには、少しでも心に響くものがあったのではないでしょうか。
兄と話していると、自分が忘れてるちょっとした気遣いや、優しを思い出せるような気がしてきます。話せて良かった、と。そのお客さんも、私と同じように思ったかもしれません。

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